『Give & Take』に学ぶ:「与える人」こそ成功する理由
- いまだ金時ブログ主
- 4月7日
- 読了時間: 10分
<h2>はじめに:「まず与える」ことへの気づき</h2>
忙しい医師として日々診療や研究に追われる中、「周囲の人にもっと優しく接したい」「チームのために尽くしたい」と思いつつも、自分の時間やエネルギーに限界を感じることはありませんか?実は私も以前、職場で後輩や同僚に手を差し伸べる余裕がなく、悩んだ経験があります。しかし、ある本との出会いがそんな悩みを一変させました。その本こそ、組織心理学者アダム・グラントの 『Give & Take(ギブ・アンド・テイク)』 です。この本には、**「成功しない人にも成功する人にもギバー(与える人)が多い」**という、一見矛盾したメッセージが登場します。つまり、人に惜しみなく与える人(ギバー)は、成功の階段の一番下にも一番上にもいるというのです。これは「与える人こそが成功する」という本質的なテーマを象徴するフレーズであり、私自身とても印象に残りました。
英文原文: “The worst performers and the best performers are givers; takers and matchers are more likely to land in the middle... Givers dominate the bottom and the top of the success ladder.”
和訳: 「最も成果を出せていない人と最も成果を出している人はどちらもギバーであり、テイカー(奪う人)やマッチャー(損得の釣り合いを取る人)はその中間に位置しがちです。つまり、成功の階段の一番下と一番上はギバーが占めているのです」
一見すると「与えてばかりの人が最も成功から遠く、そして最も成功しているなんて不思議だ」と感じるかもしれません。しかしグラント教授は、多くのデータや実例を通じてこの現象を明らかにしました。では一体どういうことなのでしょうか?本記事では、『Give & Take』のエッセンスを紐解きながら、リーダーシップや人間関係における「まず与える」思考のヒントを探ってみたいと思います。忙しい医師の皆さんにも実践しやすいポイントを交えていますので、「与えること」の力について一緒に考えてみましょう。
<h2>『Give & Take』ってどんな本?</h2>
まずは簡単に**『Give & Take』**をご紹介しましょう。著者のアダム・グラント氏は、ペンシルベニア大学ウォートン校の組織心理学教授で、この本は人間関係における与え方・受け取り方が成功にどう影響するかを分析したものです。グラント氏は人と人との関わり方を大きく3つに分類しています。
ギバー(Giver) – 他人に惜しみなく与える人。相手本位で、受け取る以上に与えようとします。
テイカー(Taker) – 真っ先に自分の利益を優先する人。常に人から奪おうとし、相手より自分が得をすることを考えます。
マッチャー(Matcher) – 損得のバランスを取ろうとする人。常に「公平」に交換しようとし、与えたら与え返し、受け取ったらお返しする感覚を大事にします。
職場や日常生活でも思い当たる方がいるのではないでしょうか。たとえば、患者さんや同僚に常に親身になれる先輩医師は「ギバー」タイプかもしれません。逆に、自分の功績ばかり主張する人は「テイカー」、何かしてもらったら必ず同等のお返しをしないと気が済まない人は「マッチャー」に当てはまりそうです。日本の文化で言えば、贈り物に対してお返しをする習慣などはマッチャー的な発想と言えるでしょう。 『Give & Take』がユニークなのは、この中でも**「ギバー」が成功に重要な鍵を握る**と提唱している点です。ただし単純な話ではありません。冒頭でも触れた通り、ギバーには「成功する人」と「失敗する人」の両極端が存在するというのです。次のセクションで、この核心メッセージについて詳しく見てみましょう。
<h2>核心メッセージ:「与える人こそ成功する」</h2>
『Give & Take』の核心にあるのは、**「与える人こそ成功する」**というメッセージです。一昔前には「良い人(与える人)は最後には損をする(Nice guys finish last)」という言葉もありました。しかしグラント氏の研究は、その常識を大きく覆しています。彼のデータ分析によると、最も成功している人々の多くがギバータイプであり、例えば医学部の学生やセールスパーソンの成績においても、トップ層にはギバーが多かったというのです。実際、ある医学部の調査では成績最下位層とトップ層の双方に「人に与える傾向」の得点が高い学生が集中していたと報告されています。 では、なぜ**「与えること」が成功につながる**のでしょうか?グラント氏は以下のような理由を挙げています。
信頼と協力を生む: ギバーは周囲から信頼を得やすく、人脈や協力関係を築きやすい傾向があります。医療現場でも、同僚に情報共有を惜しまなかったり、困っているスタッフを助けたりする医師は、周囲から頼られチームワークが向上することを実感するでしょう。
長期的な見返り: ギバーは短期的には損をしているように見えても、長い目で見ると「与えた分だけ戻ってくる」(いわゆるカーマ Karma のような)ことが多いです。患者さんや部下に親身に尽くした医師が、後々信頼されて大きなプロジェクトを任されたり、助けてもらえたりするのは珍しくありません。
学びと成長: 人に教えたりサポートしたりする行為そのものが、自分の知識やスキルを深める機会になります。例えば後輩に手技を教えると、自分の手技も再確認できたり、問い直すことで新たな発見があるものです。
こうした効果により、ギバーは周囲の成功とともに自分も成功していく好循環を生み出します。ただし、「だからギバーになれば必ず成功する!」という単純な話ではありません。次に述べるように、成功するギバーと、かえって損をしてしまうギバーとの違いを理解することが重要なのです。
<h2>成功するギバー vs. 失敗するギバーの違い</h2>
「与える人こそ成功する」とはいっても、現実には「人に与えてばかりで疲れ切ってしまった…」というケースもあります。実はグラント氏も、すべてのギバーが成功するわけではないことを指摘しています。彼の分析によれば、成功者にも失敗者にもギバーが多い理由は、ギバーの中にもタイプの違いがあるからです。 彼は成功するギバーとそうでないギバーを大きく二種類に分けています。
成功するギバー=「他者志向」のギバー: 他人の利益を図りながらも、自分のこともちゃんと考えられるタイプ。言い換えれば「利他と自己利益の両立」が上手なギバーです。こうしたギバーは戦略的に与える術を心得ており、自分が消耗しすぎないよう調整しながら周囲に貢献します。グラント氏はこのようなタイプを「オザーリッシュ (otherish)」と表現し、自分の目標や幸せも大切にしつつ、人に与える姿勢だと説明しています。
失敗するギバー=「自己犠牲的」なギバー: 周囲に与えるばかりで自分が疲弊してしまうタイプ。頼まれると何でも引き受けてしまい、自分の時間やエネルギーを犠牲にしすぎて燃え尽きてしまうケースです。いわば「お人好しが過ぎる」状態で、残念ながらこのタイプのギバーはテイカーに利用されたり、肝心の自分の成果を伸ばせなかったりする傾向があります。
成功するギバーになるには、「他者志向」であることが鍵です。自分を犠牲にしすぎないバランス感覚を持つことで、与える行為が長続きし、結果的に周囲からの信頼と自身の成果を両立できます。グラント氏も「受け取るより多くを与えても、決して自分の利益は見失わず、『いつ、どこで、誰に、どのように与えるか』を決めることが大切」と述べています。つまり、「与える」と「自分の目標」を両立させる工夫が必要なのです。 医師の仕事でも、「なんでも引き受けて結局自分がヘトヘト」という経験はありませんか?それは自己犠牲的ギバーの罠にハマっているのかもしれません。一方で、例えば周囲に協力しながらも「ここは自分より他の適任者に任せよう」と判断したり、「今週は忙しいからこの件は来週フォローしよう」と適度にNOと言える医師は、長期的に見て無理なく与え続けられるでしょう。
<h2>忙しい医師でもできる「まず与える」思考のヒント</h2>
「とはいえ、毎日忙しくてとても余裕がない…」という声が聞こえてきそうです。確かに医療の現場は常に時間との戦い。ですが、小さなことで構いません。忙しい医師でも実践できる「まず与える」思考のヒントをいくつかご紹介します。
「傾聴」のプレゼント: 最初にできるギブは相手の話をしっかり聞くことです。患者さんの訴え、同僚の相談、看護師さんの報告――忙しいとつい流してしまいがちですが、数分でも相手の目を見て耳を傾けてみましょう。それだけで「この人は自分を大切にしてくれている」と伝わり、信頼関係が深まります。忙しい時ほど意識的に相槌を打ちながら話を聞くことで、相手に安心感と尊重の気持ちを与えられます。
知識や情報を共有する: 学会や勉強会で得た最新の知見、あるいは日々の診療で培ったコツなどを、惜しみなく同僚や後輩に共有してみましょう。例えば「この症例ではこう対応したらうまくいったよ」とランチの合間に伝えるだけでも立派なギブです。知識を共有すると、チーム全体のレベルアップにつながり、ひいては自分が休みの日でも患者さんに質の高いケアが提供されるなど巡り巡って自分にも利益が返ってくることがあります。
ちょっとしたお手伝い: コーヒーを淹れる、急患対応で手が足りないときに駆けつける、後輩のカルテを書き終えるのを手伝うなど、小さなサポートも積極的に行ってみましょう。「そんな時間ないよ!」と思うかもしれませんが、わずか5分誰かを手助けするだけでも相手の負担を減らし、大きな感謝を得られるかもしれません。自分の業務に差し支えない範囲で構わないので、「何か手伝おうか?」の一言を習慣にしてみてください。
感謝を伝える: 与えることは物質的・時間的な支援だけではありません。感謝の気持ちや称賛の言葉も立派なギフトです。たとえば「いつもサポートありがとう」「おかげで助かりました」といった声かけは、忙しい職場でもすぐに実践できますよね。誰かに感謝を伝えることで相手のモチベーションが上がり、職場全体の雰囲気も良くなります。そして不思議なことに、自分も前向きな気持ちになれるのです。
境界線を保つ: ヒントとは少し異なりますが、自分のキャパシティを把握して無理しすぎないことも「賢いギバー」でいるためのコツです。断るべき時は勇気を持って断る、他の人に任せる、自分が疲れたら休む――こうしたセルフケアは決して利己的なことではなく、長く与え続けるための戦略です。忙しい医師ほど、自分を大切にしながら与えることを意識してみてください。
少しずつでも「与える習慣」を取り入れると、職場での信頼感や人間関係に良い変化が現れるはずです。私自身、意識して感謝を伝えるようにしたところ、スタッフとの連携がスムーズになり、自分のストレスも軽減されました。「与える」ことは決して特別な才能や時間が必要なわけではなく、日々の小さな行動から始められるのです。
おわりに:まずは小さな一歩から
リーダーシップや人間関係において、「与える人」になることの大切さを『Give & Take』から学んできました。ギバーが成功への鍵を握るとはいえ、ポイントは相手のためを思いながら自分自身も大切にすることでした。医師という忙しく責任の重い職業だからこそ、周囲との信頼関係やチームワークが一層重要になります。そんなとき、「まず自分から与えてみる」姿勢が、きっと皆さんのリーダーシップをより良いものにしてくれるでしょう。 共感できる部分や、「自分も明日からやってみよう」と感じたポイントはあったでしょうか?最後までお読みいただいたあなたも、きっと職場や家庭で誰かのために頑張っているギバーの一人だと思います。ぜひ無理のない範囲で、その優しさや知識を周りにシェアしてみてください。きっと周囲との絆が深まり、巡り巡って自分にもプラスとなって返ってくるはずです。 それでは質問です。**今日は誰に、どんな小さな「ギブ」を与えてみますか?**ぜひ思い浮かべて、実践してみてください。その一歩が、あなた自身の成功や幸せにもつながります。お互いに支え合い、与え合って、より良い医療現場と人間関係を築いていきましょう。
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